記者

野辺山の完走経験を有するO女史によれば仲間内で最もタフとされるY岸さんの誘いで今年も乗鞍天空マラソンの完走を遂げた。前夜の到着遅く、「大雪渓」と名付けられた御当地の美酒に酔いしれる機会こそ逸したものの、満点の星空に同部屋の二人に宿の外まで出迎えていただいて。当初の予報から一転、快晴に恵まれた当日。折り返しの標高は二千六百米、雲海に雪壁、そして、最高点には大雪渓広がり、景色のみならずスキー客の姿も。
そう、Y岸さんは私より年上なのだけれどももう一人は高校時代のバレー部の先輩。今やすっかりオッサンなれど、風貌見れば当時は一目瞭然。数年前に郷里で再会を果たした際に話題がそちらに及び、知らずと同じ大会に出場していた因縁。以来、そこでの再会を誓い合ったそうで窺い知れる二人の間柄に部活動に学ぶ人間関係。まぁ私は他人なのだけれどもそれも一つの御縁と先輩の御高説に相槌を打ちつつ...。
この御時世に専属などと悠長なことは通じぬらしく、非番の際は黒塗りならぬ軽バンにて送迎係。同乗者は課長級に随行とおよそ複数名。酒席への誘いがパワハラになる時代、後部座席に職場の様子が見て取れるとか。終始無言の道中、心配して水を向けようにも「運転手の分際で...」などと火の粉を浴びぬとも限らず、じっと観察しとるそうなのだけど、巷の家政婦並みに庁内事情には詳しかったりもして。
無免許というよりも更新せずに放置していたというのが真相らしいのだけれども違法は違法。されど、法令遵守以上に別な判断が働くのがこの世界。潔く辞した市議を目に自らも失効した過去を振り返りつつ、「彼は私にも随分と挨拶してくれたんだが」と些か残念な御様子はおらがセンセイ。やはり、挨拶が交わせるというのがセンセイとして、いや、生きていく上で重要なことではないか。
悲しいかなそこまでの才には恵まれず。顔と名が一致せぬことしばしば。見覚えのある顔に名を聞いては失礼。名を聞かれて苗字を告げし相手に「いや、苗字じゃなく下の名前」との機知は角さんの処世術にて名を聞かずともそこから辿らばいづれ回路が繋がるはず。昇降機に偶然にも居合わせた相手、「暫くぶりの復帰にて」との挨拶に部署聞かば...。
そもそもにそちらとは疎遠、相手方の事情知りつつもこちとら元々そのへんには無頓着な性分にて利用価値は低く。が、議長とあらば何か「特別」な情報を握っとるに違いないとの勘。こちとら海外視察時に背後から狙われて無防備のまま受ける位だから潜在的な危機管理力は低いのだけれども人目憚らず庁舎一階の昇降機の前で受けし取材、というか尋問。
挨拶をしていただいた以上は協力は惜しまぬも知りし情報は口外ならぬとのかん口令。下戸の酒席が如く、「ならば聞かずと結構」が本音にて飼い殺しに近く、口に戸は立てられぬ。いや、肝心なところさえ伏しておけば...と相手の巧みな話術に饒舌が過ぎて後悔先に立たず。翌朝、記事を目にした一部が騒いどるとの報告に対応を聞かれてつい視線をそらしてしまった。当該の記事にはあくまでも「複数」筋からと。
(令和元年6月25日/2507回)