和睦

モックンこと俳優の本木雅弘さん演じる斎藤山城守利政、いわゆる「道三」がカッコいい。定評ある演技力がその台詞をより印象付けて。一介の油売りから身を起して美濃一国を統治せし実力は「マムシ」の異名が物語る。娘婿とは申せ、信長と手を結ばば圧倒的な勢力を有する今川勢を敵に回すことになりかねぬと騒ぐ国衆。大うつけと評判の若殿にいづれひれ伏す時が来るやもしれぬと諭す父に任せておけぬと家督を迫る義龍。和睦を結ぶ相手が違うと言わんばかりの包囲網は何もそこに限らず。

質問権を制限するものではない、あくまでも医療崩壊を防ぐ為の暫定的な措置に過ぎぬ、と弁明したものの、これっぽっちの返答に十日を有するは納得いかぬ、と相手。全戸配布への不良品の混入が如く小さな綻びが相手に機会を与えかねず、そんな時ほど細心の注意を払わねばならんのだけど。侮れぬ蟻の一穴。そもそもに敵の軍門に下るが如き決断、というか安易な妥協が間違いの元、募る鬱憤に叩かれる陰口は四面楚歌の道三が如く...どうする十兵衛。こりゃもう完全に洗脳されとるナ。

拡大を阻止せねばならぬ、そんな意識は煽らずと既に浸透十分。が、異端児はいるもの、根絶せねばの執念は分からんでもないけれども規律通さば自由が通らず。自粛疲れはまだ早いとのもう一押しは泣きっ面に蜂、加減を見誤ればむしろ怨念となって降りかからぬとも限らず。そこまでせねばならぬ規範を憂いつつも、利用禁止の貼り紙ならぬ巻かれし黄色いテープ。が、それ以上に咲かねば来ぬに違いないとつぼみ落とすはさすがに。諸侯に宛てた私の通達とてそこまで厳しくは...。

医療従事者への賛辞が絶えず、広がりし寄付募る支援の輪。それこそ善意の発露にて外野がとやかく言う資格などないと知りつつ当時それだけの国民的運動があっただろうか、と顧みずにはおられず。東日本大震災において自衛隊の活躍こそ殊勲一等と信じて疑わぬもその差異や何か見えぬ力でも...。運ばれてくる患者に向き合わねばならぬと危険を顧みぬ高い倫理観こそ国の宝。一方で崩壊の前兆とされるたらい回し、拒否の理由は「手一杯」のみか。

そのへん知るに十把一絡げに「善」とするは些か尚早ではなかろうか。医者の言うことは絶対に正しい、との盲目的な追従、またはそれに近き風潮が形成されるは当人の為にもならず。慢心こそ敵也。私自身もその軽妙なエッセイのファンの一人なのだけれども医師の里見先生も「医学の勝利が国家を滅ぼす」等々とその著書名に世を戒めておられる訳で。

むしろ彼らに些かも劣らぬ働きをするは清掃員。日々扱うは店頭の商品ならぬゴミだからね。これぞまさに生活必需で休みなしな上に防護服って訳には参らず。外食減れば自ずから家庭ゴミの量も。ここぞと自らの働きを誇示するものでもなく淡々と作業をこなすその姿こそファイター...否、賞賛に値せぬか。事態が落ち着いたら存分にメシでも...。などと記して後日に請求書が届かんことを願っている。

(令和2年4月30日/2567回)