所長

目立たねば人の目にとまらぬ、騒いだもの勝ちと公共の電波を利用してのアジ演説は聞くに堪えぬ。玉石混淆の中にあって今日はホンモノ...と思しき御仁の話。

専門が専門にてその露出を喜んではおれんのだけれども、週刊新潮に「われわれは感染症の専門家ですので自粛をしないと医学的にこういうことが起きる、ということは提言できますが、経済面への影響や解決策は専門外なので、支援が必要だという提言に留まります」と見かけた。

目下、本市が誇る「所長」が多方面で活躍中。まぁこんなことでも無ければ疎遠な管理職の一人として退職を見送っていたはずなのだけれども政府の専門家会議委員に抜擢されたばかりか寄稿の依頼も多いとか。出演の魂胆が透けて見える御仁と違い、はや数年前には表舞台からの隠居を決め込んでたってんだから今さらにひと旗あげる野心など露ほどにも無く媚びず自由奔放に。本市を冠した肩書は宣伝効果抜群、いい人材を抱えておるではないかとの声。

事の経緯を申し上げれば、遡ること数年前、従来の衛生研究所を閉鎖して本市が新たな研究所を創設、その目的は「感染症対策や食の安全・安心、医薬品対策等」とまさに今日を予見したかの如き答弁が残り、そこの初代所長に招聘されたのが当人。渦中の国際機関にも在籍されておられた経歴を有し、国立感染症研究所感染症情報センター長として定年を迎えんとする同氏に幸か不幸か白羽の矢。そのまま退官の予定も「たまたま」声をかけられた縁で...と本人。縁とは不思議なもんですナ。

勝利宣言に沸く国を模範とすべし、検査の適用範囲を拡大、んな手間をかけずと手軽な簡易キットを広く普及させ...と申してもその時点の白黒であってその後のシロを保障するものでもなく。医学的見地からの精度とてどうか。尚且つ、陽性者の情報をいち早く察知して本人の行動経路を元にスマホにて警戒を促す、って筒抜けの監視社会とあらば代償は小からず。都市封鎖とてカミュの「ペスト」が如くウイルスが息絶えるまで長期戦、いや、特効薬が開発されるまでの時間稼ぎ、としても見えぬ先行き。

国内を封じ込めたと申しても鎖国で国が成り立つか。北の大地とて一時の賞賛を集めし隔離宣言も今や第二波などと手こずっておられる訳で。とするとやはり目指すは集団免疫の確立。ここ数日の本市の数字見れば院内感染と接触歴アリがほぼ全てを占め、経路不明、いわゆる「市中」はゼロに近く。施設の警戒は緩めずと市中は青信号...いや、それはさすがに拙速にしても経済面を見れば「完全」隔離の赤信号ならずと三密「注意」の黄信号位なら。

規律厳しいほど違反者に対する怨念は深い、と最近の一冊に見かけた。執刀即縫合の荒療治とは対極のジワリ効く漢方薬こそ東洋医学の真髄。中途半端と揶揄されようとも程々の警戒心こそ。不要不急かの尋問への返答やいかに。春日和、多摩川を散歩する方々を車窓に眺めつつ、自然と集団免疫が広く育まれておりはしまいかと。

そう、話題の所長。何もそちらばかりでなく、ちゃんと本市でも辣腕を振るっておられ。本人が手がけたと思しき以下の文章に人柄が見てとれる。

(令和2年5月5日/2568回)