漁村

禁欲続かば募る鬱憤、コロナ離婚とは言い得て妙、別離に到らずと心平穏ならぬはどこも同じか。帰路の車中に落選流浪のH氏より着信があった。「おい、議長、市井の民の生活が見えとるか」と。「んなもの余計な御世話ってもんで。目下、職業不詳の貴殿に言われずとちゃんと巷は歩いて...」と反論せぬは大人の証か同期の好か。

私の選出区が麻生区ならばH氏は川崎区。言わずと知れた本市の屋台骨。客来てなんぼの世界、厨房こそ生き甲斐なれど働くに働けぬ店主の悲鳴。が、何も不自由は店側のみにあらず。客側とて店を探すにひと苦労、テイクアウトなどといわれてもやはり店内に勝るものなく。「まぁいづれメシでも一緒に...」と申し上げれば、「いや、店で偶然会ったことにすれば...」と相手。

透ける意図に翌日の昼メシなら、と伝えたはずも待てど連絡なく。当人がわが裏庭が如き顔をしとる川崎区中島を歩いた。市立病院の入院中には湯治などと称して銭湯「中島湯」はじめ界隈に毎晩が如く出没しておったのだからH氏に案内されずと勝手は知っとる。名ばかりとは申せ、一応は川崎「市」の議長ですゆえ。そう、「なかやま」の日替わりランチが旨かったナ。

今ではデカい顔をしとるけど、あのへんなど元々は漁村にすぎぬ。江戸に遠からず近すぎず適度な地だったって話でそれに比べれば...と続く。かねて目を惹いていた「横浜大戦争」(蜂須賀敬明著)を読んだ。ハマの大神様の指示で市内各区の土地神が争う設定なのだけれどもその土地の魅力を連想させる役柄に各区の特徴が窺い知れて。大洋ホエールズのシャツに便所サンダルのいでたち、どんな悪球もホームランにする魔法のバット「硬球必打」を神器とするは主人公の保土ケ谷の神。今や人気のベイエリアとて元は漁村、やはり街道筋の宿場町こそ、との矜持は忘れがたく。「翔んで埼玉」が好評を博した一つに自虐的であれ土地の隠れた魅力が上手く視聴者の心を捉えた一面はあるはずでやはり御当地モノってのは面白い。

あの宣言以降、目立つ知事の言動。国から権限も付与されたとあらば自ず鼻息荒くも明暗どうか。依然とそちらの話題一色にて注目が薄れがちなれど、今夏の公表に向けて県による土砂災害特別警戒区域、いわゆる危険な崖地の指定が進む。予め危険性を伝えておくことは災害時に有効との善意らしいのだけれどもそれで終わらぬが巷。煽られる恐怖に募る不安、こじれる隣との関係。指定された以上は何らかの対策を講じてもらわねば...となるも土地の所有は県ならず。

「土砂災害警戒区域」と「土砂災害特別警戒区域」、漢字表記は見分けつきにくくも色に直せば「黄」と「赤」だそうで、レッドゾーンなどともなれば以降は一部の建築制限のみならず地価の下落は避けられず、売るにも売れぬ。買い人が予め知るは損ならずと売り手は逆。そんな地権者の許可なく塗られた地図見るは「市」が発行する土砂災害ハザードマップ。となると苦情の窓口は...。

口挟みしは「県」なれど後始末は「市」、との理不尽な仕組みは少なからず。最近もどこかで見たナ、そんな話。

(令和2年5月10日/2569回)