訳者

政敵攻むるは「遅い」「甘い」「足りぬ」の三語で十分。在籍そちらゆえ贔屓目に見がちなのだけれども「恣意的な人事が行われかねぬ」-「恣意なき人事がどこにある」、「今やらずとも」-「やらぬ理由とてないはず」と浮かぶ屁理屈。騒ぐに罪人ならぬ芸人とは売名行為か興行中止のあてつけか。断念した直後の特ダネ報道。定年延長は何も検察のみならず、いわゆる「束ね」を成立させる必要はない、との判断も目前に浮かぶ火の粉が見えれば深追いせずに...は勝手な憶測。相手方とて転覆狙う以上はそこにかこつけた陰謀とて否定できず。猫噛む窮鼠、断念に損するは政権以上に...。巷に不自然少なくなく。

こちらもひとまず臨時会を終えた。「足りぬ」との追及に頑として譲歩見せぬ市側。勝手にいじって承認、その手法を「動議」というのだけれどもいじると申しても「足りる」ことなく。付されし条件は「速やかに更なる追加支援を講ずべし」と。そう、売上減少店舗への直接給付の話。採決終えた昼食時に秘書から入る連絡。午後に市長が面会を希望と。はて、追及でも厳しすぎたか、いや、んなことで怯む相手でもなく。

聞かば「附帯決議を重く受け止め、追加支援を決断した」と。時系列上は議会側の意向を汲んだ、斟酌した上で更なる対策を講じるという申し分なき結末のはずも渦巻く憤懣。採決「直」後における電光石火の公表は不自然。一日前の常任委員会の質疑とて追加の必要性を求めた質問に「予定はない」と金庫番の局長が断言していたではないか、隠すとは卑怯、議会軽視も甚だしい、というのがそちらの言い分らしく。

まぁ勘ぐればそうかもしれぬが、そこに物的証拠なく、徹夜の可能性とてゼロではあるまいに...。一夜にしては上出来も用意周到とまではいかず、詳細な制度設計や財源等を付して議案とするには些か尚早。まぁこちら側の面目も立ったし、十分ならずと及第点位は与えても良さそうなもんなれど「甘い」と相手。それを咎めぬ議長とて「同罪」とまでは言われぬまでも注がれる冷ややかな視線。叩かれてなんぼ、箴言に耳塞いでは成長せぬものにて屈指の論客の皆様には随分と議長室におでましをいただいた。

そう、んな時は悩まず趣味に没頭するが利口。短編を漁る、と申しても文庫一冊は少なからぬ分量。翌日には次を探さねばならず。そんな折、海外在住の妹よりメールが届いた。パール・バックの「大地」を読むべしと。中国を舞台に描かれし壮大な作品なれど、「女工哀史」以上の凄惨な生活実態の描写が国の恥部を晒しかねぬと波紋広げし一冊もそれを補って余りある内容。名著とあらば数多くの訳者がそれに挑んどるのだけど私が手にした一冊は新潮文庫のもの。およそ海外モノは行間の狭さと字の異様な小ささ、違和感ある邦訳に挫折しがちなれどこちらは秀逸。

明治の文豪、漱石に鴎外の割れる海外評価は文化的な違いも然りながら翻訳に負う面とて、とは勝手な解釈。読者諸賢はいかが思われるか。

(令和2年5月25日/2572回)