川奈

部屋にこもって本ばかり読んでいたら体調が途端におかしくなってきた。階段の昇降運動に朝の散歩先は住まい近くの多摩川。でも、やはり「対岸」なんだそうで。御齢八十四歳、ノーベル賞受賞者の大村智さんの人柄が窺い知れる一文を文藝春秋の今月号に読んだ。

そこも本人の「こだわり」か、ただの仲間ならぬ「ゴルフ」仲間が多いと。土の中の微生物に有用な物質は無いか、と遠征時も小さな袋は忘れず。世紀の発明に結びついた微生物は名門ゴルフ場の近くで採取された土に住んでいたと。さすが名門。

正式名称は「マクロライド系抗生物質」というそうだけど、複数の作用を有することが特徴だそうで。寄生虫の駆除薬が期せずしてコロナウイルスにも、とか。人為的に意図されたものと違い、自然の中で生まれたマクロライド構造は「何に効く」とピンポイントの設計になっておらず。自然界の産物にてそれなりの安全性が担保された上でその多様な生物活性が救世主になり得るのではないかとの期待。

特化したワクチン開発が注目されるも今後の未知なる事態に備える上では直ちに使える薬を作らずと、長期的な視点から汎用性が高い抗ウイルス薬を模索することも必要ではないか。公衆衛生とて過ぎたるは及ばざるが如し、除菌剤や抗菌グッズの多用は微生物の耐性を弱らせるだけに日頃それなりに接することで免疫力を磨いておく重要性も説いておられ。

さて、議案の採決を終えて市議会の舞台は一般質問に。高津区の斎藤伸志氏の質問の中に若年がんに関するものがあった。三十七歳で脳腫瘍が見つかり、薬石効なく四十歳で鬼籍に入られた方の御遺族からの相談と。高齢者とあらば宣告されても進行遅く、往生遂げるは寿命と思しき適齢前後なれど、若年はまさに青天の霹靂、突然の宣告に動揺する家族、治療以上に病魔の勢い勝り、泣き崩れる御遺族の姿は見るに忍びず。本人の意思や善行とは無関係に降りかかる災い。

医療は国民皆保険で救われるも副次的に生じる介護等の福祉サービスはどうか。未成年であれば小児医療、四十歳以上であれば介護保険にて救済されるも制度の狭間に残された方々。年齢に及ばずと対象者はほんの数えるほどしかおらんのだからその位は大目に見ては...と思えど、負担と給付の切れぬ関係、負担なき給付に高き壁。その一例を以て保険料の負担年齢を下げる訳にも参らぬし。

いや、現行とて「全く」ない訳ではなく、病状の悪化を待って障害者手帳を取得し、障害者総合支援法の枠組みの中で支援を受けることは可能なれど、若年がんは容態の急激な悪化が特徴にて申請手続きが追い付かぬ現状。救済はそちらの制度の中で...と、突き放される事例には事欠かず、そんな時に限って大抵は「対岸」の制度のほうが「手厚」かったりもして。

制度に完璧なく、利用者の視点が不足しがちの制度設計の是正こそ国政に課せられた使命なれど、その狭間を補完する細やかな目配りの視点が自治体にあっても。若年がん患者の在宅療養を支援する動きが加速しているとか。やはり当事者に寄り添う姿勢は忘れてはならぬ。

(令和2年6月25日/2578回)